趣味の迷宮 〜LABYRINTHVS AD PARNASSVM〜

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

エラール1849年による「英雄ポロネーズ」

 ポーランドが生んだ音楽家の白眉と言えば、フレデリック・ショパンであろう。

 1810年生まれのショパンは来年で生誕200周年であるが、その生誕200周年の完結を目指して、ポーランド政府が運営するショパン音楽財団がオリジナル楽器によるショパン作品の全曲録音プロジェクトに取り組んでいる。

 この素晴らしいプロジェクトも先日11枚目が世に出たのだが、満を持して登場した「英雄ポロネーズ」が実によかった。

 ヤヌシュ・オレイニチャック(フランス映画「ソフィー・マルソーの愛人日記」でショパン本人役で出演していたこともある)がエラールの1849年を弾いた録音であるが、エラールの木質の響きが、英雄ポロネーズの華やかなメロディと大変相性が良く、実に味わい深い。

 演奏解釈も、けれん味を利かせて、間の取り方、ルバートのかけ方が実に巧妙で、ダイナミックなフォルテの続くこの作品の中に時折繊細なタッチを滑り込ませ、実に表情豊かで、聴きごたえがある。横綱相撲とでも言うべき王道の演奏であろう。

 最初に手に入れた英雄ポロネーズのオリジナル楽器による録音は、ジョン・コーリが1848年のブロードウッドを演奏したものであったが、ブロードウッドは少々音が固く、彼一流の猛スピードのど迫力を味わうにはうってつけではあっても、曲そのものの地味は少々薄らいでいなくもなく感じたのだが、今回好対照をなす聴き比べができるようになったのが実にすばらしいことだと思う。

西洋美術館の古代ローマ展

 上野の国立西洋美術館で開催中の、古代ローマ展に行ってきた。
 ポンペイ・エルコラーノ出土のナポリ考古学博物館の収蔵品を中心に、東大の発掘隊が発見したアウグストゥス帝の別荘の遺跡から出土した彫刻などを加えた展示である。

 圧巻は何と言っても、ポンペイの「黄金の腕環の家」のモザイク・フレスコ画と、その復元映像である。
 ポンペイの遺跡にあった壁画やモザイクの大半は、引きはがされて博物館に収められているため、in situ(その場で)で観ることができず、現場は現場、モザイクは博物館、と別個に鑑賞するしかないので、現場を訪ねてもコンクリートの塊しか目に入らず、博物館では切り離された美術品として鑑賞するしかない。

 もちろん、美術品としても大変素晴らしいものなので、それだけでも十分に楽しめるのだが、今回はCGで現場の再現映像が放映されており、これが非常に素晴らしかった。

 あんなすばらしい食堂で料理とワインに舌鼓を打ったら、どんなにか素晴らしいことだろう。

続・醸造所見学〜迷宮的旅行記第9章(2)

 ウィスキーは通常、シングルモルトをいくつかブレンドしてつくられる。

 今回は、そのブレンディングを体験するセッションである。

 まず、バーボン樽熟成、シェリー樽熟成、ミズナラ樽熟成の3つのシングルモルトを味わう。
 それぞれに個性ある味わいで、どれもうまい。
 次いで、これらの味を溶け合わせるよう倍のような役割を果たすグレーンウィスキーを味わう。
 こちらは、これと言って主張のない味わいで、単独で飲むには弱い印象である。

 次に、3つのモルトを混ぜ合わせたものを味わう。
 それぞれの個性が同時に口腔をくすぐり、大変面白い。
 そこへグレーンを投入すると、今度はその三つの風味が一つに溶け合い、一体感が生まれる。
 最後に、パワフルなピート香を利かせたスモーキーなモルトをスポイトで一滴たらす。
 すると、わずか一滴でピートの香りが全体をぐっと引きしめ、実に立体感のある味わいになった。

 こうしてブレンディングを体験してみると、いつものシングルモルトばかりでなくブレンデドの面白さもまた捨てがたいと思えてくるものだ。

 空きっ腹に昼間からウィスキーを入れてだいぶ酔っぱらったのだが、昼食に山梨名物放蕩を食して元気を取り戻し、午後は勝沼のロリアンワインの醸造所を訪ねる。

 美味しんぼに出演(?)したこともあるという社長の御案内で、まずシャルドネ、ピノ・ノワール、カベルネソーヴィニョンの果実をブドウ棚からもいで、ブドウの味を体験させていただいた。
 ワイン用のブドウは酸っぱいという先入観があったのだが、実際に食べてみると非常に甘い。社長の説明によると、アルコールは糖が分解されてできるものなので、むしろ食用のブドウ以上にワイン用のブドウは甘いのだそうである。その反面、実は小さく皮も厚く種も大きく、味わいは良くとも確かに食用には適さないと言えるだろう。それでいながら、やはりある意味面影があるというか、シャルドネはシャルドネらしさ、ピノ・ノワールはピノ・ノワールらしさ、カベルネ・ソーヴィニョンにはカベルネ・ソーヴィニョンらしさが感じられたのが面白かった。

 やはりバーの常連客が集まったツアーだけに、酒飲みにはたまらない素晴らしいツアーであった。

醸造所見学〜迷宮的旅行記第9章

 行きつけの地元のバーのマスターが企画してくれた、サントリーの白州醸造所見学ツアーに行ってきた。サントリーの営業さんが全面協力してくれたおかげで、非常に充実したツアーであった。

 朝6時に横浜に集合して、一路山梨県は白州醸造所まで向かう。
 3時間弱で到着。

 一面に広がる豊かな森、そこに漂うさわやかな空気が非常に心地よい。
 なるほど、白州のあのさわやかな香りはここから生まれているのだな、と納得がいく環境である。

 まずは簡単にレクチャーを受けた後、工場見学に出掛ける。

 最初に醗酵樽を見学する。
 ここは、麦芽を温水に浸して発酵させ、アルコール度7%程度のもろみを醸造する工程である。
 樽のふたを外して、醗酵中の香りをかがせていただいたのだが、ベルギービールのような濃厚な香りで、非常に興味深い。ここでは、酵母のほか空気中の乳酸菌も発行に利用するため、木の醗酵樽で醗酵が行われているのだそうである。

 続いて蒸留釜を見学する。
 巨大な銅製の蒸留釜がずらりと並ぶさまは圧巻である。
 大きさや首の形が違うのは、蒸留中の気体が銅の表面に触れることで味わいが決まってくることから、銅との触れかたを工夫してさまざまなニュアンスの違いを作り分ける目的なのだそうである。

 お次は、樽の焼成工程を見せていただく。
 ウィスキーは、まず新材で作った樽でバーボンもしくはシェリー酒を3年ほど熟成させ、その樽の内側をバーナーで焦がして6年程度の熟成用のモルトウィスキーを作る。そして、そのモルトウィスキーが完成したら、再び内側を焼き直して今度は12〜17年程度の熟成用に使い、それを再び焼きなおしてようやく30年熟成に耐える樽が出来上がるのだそうである。

 ということは、30年物のウィスキーができるまでには、新材の切り出しからだと都合60年はかかることになるわけである。……なるほど、お値段も納得だ!!

 この焼成工程は非常に見ごたえがあり、おもしろかった。
 まず、古樽の内側をバーナーであぶると、樽全体から青白い炎がぼんやりと上がってくる。
 これは、樽材にしみ込んだウィスキーが燃えている段階だそうである。

 次いで、炎を強めると、ぱちぱちという音とともに、炎の勢いが一気に増していく。
 これは、前回のウィスキーを熟成させた焦げ目に火が移り、炎が入って古い焦げ目を焼きつくし、焦げていなかった層に焦げ目を広げていく段階にあたるそうである。

 最後に、樽内の焦げ目が必要十分に達したタイミングで、ごく少量の水をかけ、一瞬のうちに炎を消し止める。

 この一連の作業を、目的通りの焦げ具合でやり遂げられるようになるまでは10年はかかるのだとか。何事も、ものづくりの世界は奥が深いものだ。

 一連の工程を見学したのち、今度は完成したウィスキー樽を熟成させる貯蔵庫を見学させていただいた。

 ウィスキーは熟成中に自然に蒸発してゆき、「天使の分け前」と呼ばれる減耗が発生する。
 すなわち、貯蔵庫の空気中には、この天使の分け前が充満しているわけである。
 その結果、見学者は天使の分け前の分け前に与り、かぐわしい香りの中を進んでゆくことになる。アルコールに弱い人は、この中を歩くだけで酔っぱらうのだとか。

 ……監査法人にいた時、こんな棚卸に行ってみたかった(笑)

 こうして部長直々の解説を賜りながら充実した工場見学を終え、次はお待ちかねのブレンディング体験セッションである。(続く)

至高のイタリアン、サローネ@元町中華街

 予約の取れない名店として名高い横浜のイタリアンの名店、サローネに行く機会を得た。

 メンバーはいつもの美食仲間4人である。

 ここは、料理自体は本場の味のすばらしいイタリアンであるのだが、サーヴの方法に懐石の要素を取り入れていて、少量の皿を8つ出すという独特のスタイルをとっている店である。

 まずは食前酒に、セグレタ・ロザという、薔薇のリキュールをスプマンテで割ったカクテルで乾杯。
 バラの香りがかぐわしく、大変に美味である。

 一皿目の山形牛のスピエディーノが供される。
 薄切りの山形牛で、白トリュフ風味をつけたチーズを巻いたもので、非常にテンションが上がる。

 ここで一本目のワインを注文。

 マルヴァジアを主体としたヴェネトの白で、マルヴァジアらしい華やかな香りが実にすばらしい。

 2皿目のスズキの塩締めをポレンタに重ねた料理が、またこの白ワインに抜群の相性である。

 3皿目は、鮮魚のヴァポーレ。当日仕入れた魚をスープに仕立てた一皿である。
 今日の魚は石垣鯛と言う白身魚で、もっちりした皮のコラーゲン風味が実に美味である。そこにハマグリとネギが加わり、絶品のスープが出来上がる。その上にたらされたオレンジの皮とオリーヴを一緒に絞ったオレンジオイルが実にさわやかな香りで、立体感のある、一流の味わいであった。

 4皿目に、ミルクを使って打った手打ちパスタのトレネッテ(リングイネよりちょっと太いロングパスタ)が出てくる。これは塩釜で焼き上げたリグーリアの赤玉ねぎと、シチリア産のアンチョビで味つけられていて、実に滋味豊か。ミルクで練ったことで柔らかみが出て、ミルクの甘みが優しく心地よい。

 次の5皿目が、赤エビのサルティンボッカ。通常生ハムをチーズで焼いた料理をサルティンボッカと呼ぶのだが、この料理はその生ハムとチーズを赤エビに巻きつけたものである。エビのうまみ、ハムのうまみ、チーズのうまみが溶け合い、白ワインとの相性も抜群である。頭の中のミソがまた素晴らしい。

 ここでワインを赤に変える。
 お店のお勧めの、エミリア・ロマーニャ産のアマローネである。
 アマローネと言えばヴェネトのイメージだが、このエミリア・ロマーニャのアマローネは、アマローネらしい深みのある香りを持ちながら、それでいて味わいは非常に軽やかという貴重な一本である。

 お次の料理は、フォアグラのクッキアイオ。クッキアイオというのはイタリア語でスプーンのことである。一口大のフォアグラを温め、香味野菜とともに一口で味わう料理で、この一口の濃厚な味わいとアマローネの濃厚な香りが最高の相性である。

 次に出てきたのは、北海道産小鹿のラグーを詰めたラヴィオローネである。ミントと柿、香ばしく炒ったクルミが乗せてあり、小鹿のなめらかな舌触りがラヴィオローネのしっとりとした舌触りと溶け合い、小鹿のジビエらしい味わいにカキの甘みとミントのさわやかな香り、クルミの香ばしさが組み合わさって対位法的な味覚世界を繰り広げる。

 料理の締めは、馬フィレ肉のインパナータ(パン粉焼き)である。
 これまた馬肉の豊かなコクを引き出し、絶品。

 ドルチェかチーズの選択だったので、チーズを選択。
 水牛のミルクでハードチーズを作った、非常に珍しいクレモーゾ・ディ・ブッファラという逸品が、実に豊かなコクで、非常に美味であった。出来立てでないと実力を味わいきれないモッツァレッラ・ディ・ブッファラは輸入すると残念な結果になりがちだが、これならじっくり熟成させたものであるので、日本に空輸しても全く味が落ちる心配はない。

 最後にエスプレッソ・ドッピオでこの夢のようなチェーナは幕を閉じた。

 ここは本当に素晴らしい店である。
 広尾のインカントと並ぶ、2大ベストイタリアンだ。
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