ポーランドが生んだ音楽家の白眉と言えば、フレデリック・ショパンであろう。
1810年生まれのショパンは来年で生誕200周年であるが、その生誕200周年の完結を目指して、ポーランド政府が運営するショパン音楽財団がオリジナル楽器によるショパン作品の全曲録音プロジェクトに取り組んでいる。
この素晴らしいプロジェクトも先日11枚目が世に出たのだが、満を持して登場した「英雄ポロネーズ」が実によかった。
ヤヌシュ・オレイニチャック(フランス映画「ソフィー・マルソーの愛人日記」でショパン本人役で出演していたこともある)がエラールの1849年を弾いた録音であるが、エラールの木質の響きが、英雄ポロネーズの華やかなメロディと大変相性が良く、実に味わい深い。
演奏解釈も、けれん味を利かせて、間の取り方、ルバートのかけ方が実に巧妙で、ダイナミックなフォルテの続くこの作品の中に時折繊細なタッチを滑り込ませ、実に表情豊かで、聴きごたえがある。横綱相撲とでも言うべき王道の演奏であろう。
最初に手に入れた英雄ポロネーズのオリジナル楽器による録音は、ジョン・コーリが1848年のブロードウッドを演奏したものであったが、ブロードウッドは少々音が固く、彼一流の猛スピードのど迫力を味わうにはうってつけではあっても、曲そのものの地味は少々薄らいでいなくもなく感じたのだが、今回好対照をなす聴き比べができるようになったのが実にすばらしいことだと思う。
行きつけの地元のバーのマスターが企画してくれた、サントリーの白州醸造所見学ツアーに行ってきた。サントリーの営業さんが全面協力してくれたおかげで、非常に充実したツアーであった。
朝6時に横浜に集合して、一路山梨県は白州醸造所まで向かう。
3時間弱で到着。
一面に広がる豊かな森、そこに漂うさわやかな空気が非常に心地よい。
なるほど、白州のあのさわやかな香りはここから生まれているのだな、と納得がいく環境である。
まずは簡単にレクチャーを受けた後、工場見学に出掛ける。
最初に醗酵樽を見学する。
ここは、麦芽を温水に浸して発酵させ、アルコール度7%程度のもろみを醸造する工程である。
樽のふたを外して、醗酵中の香りをかがせていただいたのだが、ベルギービールのような濃厚な香りで、非常に興味深い。ここでは、酵母のほか空気中の乳酸菌も発行に利用するため、木の醗酵樽で醗酵が行われているのだそうである。
続いて蒸留釜を見学する。
巨大な銅製の蒸留釜がずらりと並ぶさまは圧巻である。
大きさや首の形が違うのは、蒸留中の気体が銅の表面に触れることで味わいが決まってくることから、銅との触れかたを工夫してさまざまなニュアンスの違いを作り分ける目的なのだそうである。
お次は、樽の焼成工程を見せていただく。
ウィスキーは、まず新材で作った樽でバーボンもしくはシェリー酒を3年ほど熟成させ、その樽の内側をバーナーで焦がして6年程度の熟成用のモルトウィスキーを作る。そして、そのモルトウィスキーが完成したら、再び内側を焼き直して今度は12〜17年程度の熟成用に使い、それを再び焼きなおしてようやく30年熟成に耐える樽が出来上がるのだそうである。
ということは、30年物のウィスキーができるまでには、新材の切り出しからだと都合60年はかかることになるわけである。……なるほど、お値段も納得だ!!
この焼成工程は非常に見ごたえがあり、おもしろかった。
まず、古樽の内側をバーナーであぶると、樽全体から青白い炎がぼんやりと上がってくる。
これは、樽材にしみ込んだウィスキーが燃えている段階だそうである。
次いで、炎を強めると、ぱちぱちという音とともに、炎の勢いが一気に増していく。
これは、前回のウィスキーを熟成させた焦げ目に火が移り、炎が入って古い焦げ目を焼きつくし、焦げていなかった層に焦げ目を広げていく段階にあたるそうである。
最後に、樽内の焦げ目が必要十分に達したタイミングで、ごく少量の水をかけ、一瞬のうちに炎を消し止める。
この一連の作業を、目的通りの焦げ具合でやり遂げられるようになるまでは10年はかかるのだとか。何事も、ものづくりの世界は奥が深いものだ。
一連の工程を見学したのち、今度は完成したウィスキー樽を熟成させる貯蔵庫を見学させていただいた。
ウィスキーは熟成中に自然に蒸発してゆき、「天使の分け前」と呼ばれる減耗が発生する。
すなわち、貯蔵庫の空気中には、この天使の分け前が充満しているわけである。
その結果、見学者は天使の分け前の分け前に与り、かぐわしい香りの中を進んでゆくことになる。アルコールに弱い人は、この中を歩くだけで酔っぱらうのだとか。
……監査法人にいた時、こんな棚卸に行ってみたかった(笑)
こうして部長直々の解説を賜りながら充実した工場見学を終え、次はお待ちかねのブレンディング体験セッションである。(続く)