この笛というお店は、住宅街の中にある小さな喫茶店なのだが、ご店主がかなりの音楽好きで、世界各地の笛をコレクションされており、その笛が壁中にずらりと飾られている興味深い店である。
北鎌倉駅を降りると、すでにもう外はすっかり暗かったのだが、寺院と邸宅の広がるエリアだけあって、道を照らすのは外套の小さな蛍光灯の明かりくらいである。非常に暗い。この暗さは、横浜あたりで生活しているとなかなか巡り合わない暗さである。だが、こうしたたたずまいにはこの暗さはなかなかに心地よく、鎌倉らしさとでもいうべき感覚を覚え名から歩いて行った。
駅から歩くこと十分ほどで、お目当てのお店に到着。
井上さんはルネッサンス時代の衣装に身を包み、リュートを奏で、歌う。15人も入れないくらいの小さな店なので、演奏者との距離は非常に近く、リュートを聴くには最高の環境と言えるであろう。
演目は、「音の旅人」と題して、吟遊詩人がイタリア、フランス、ドイツ、イギリスと旅をしてまたイタリアに帰ってくるというコンセプトのもと、各国のリュート曲を奏で、歌う。合間には、グリム童話の朗読などもさしはさまれ、楽しい。
リュートは繊細な音色が魅力であるが、やはりこういう小さな空間で、演奏者の目の前で鑑賞するとその魅力の伝わり方が全然違う。非常に贅沢な味わい方だと思う。
演目で印象的だったのは、イタリアに帰ってきたところで歌われた、「人生のパッサカリア」であった。これは、私が偏愛してやまぬマルコ・ビースリーも録音している、いかにも南イタリアという雰囲気の濃厚で渋い民謡で、大変味わい深い。人はみんな死んでしまうのだから、飲み、食べ、歌え、というような歌である。いかにもラテンだ(笑)。
You Tubeにマルコ・ビースリーの歌が見つかったのでリンクを張っておこう。
http://jp.youtube.com/watch?v=KPUAga8MzzE&feature=related
こういう濃い企画は素晴しいと思う。
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