趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

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港町の仮面舞踏会~迷宮的旅行記第三章(10)

 食欲を満たした後は、少し町を歩き、ソプラーナ門やその向かいの古代末期の修道院の遺跡(なぜかデートスポットになっていた)などを眺め、市営のフニコラーレ(ケーブルカー)でジェノヴァの背後にそびえる丘の上まで登ってみた。
 港を一望する公園からは眼前にティレニア海が広がり、6月のイタリアの青空と地中海ならではのくっきりとした青さがあいまって大変な絶景であった。

 その丘一体は高級住宅街になっていて、住宅街好きの私はしばらく散歩してみることにした。お屋敷の間を縫うようにとおる細い路地を下っていると、何となく横浜は山手あたり、港が見える丘公園から元町方面へ細い階段をくねくね下りるあの一帯の雰囲気をどこか髣髴とさせるものがある。

 ところが住宅街がよそ者には迷いやすいのもまた万国共通のようで、降りども降りどもふもとがなお遠く、30分位したところでとりあえずのどの渇きを癒すべく通りがかりに見つけたバールに立ち寄った。

 ここのバールの店員のお兄さんが非常に感じのよい、愛想の良い人で、『お前、イタリア語上手いじゃないか』などとおだててくれ、ここからふもとまでは歩いたら大変だ、すぐ近くに乗り場があるからフニコラーレに乗っていけ、と教えてくれたり、有益な情報をもらうことができた。

 教えてもらったフニコラーレでひとっとびでふもとまでたどり着き、終点はホテルのすぐ近くだったので、オペラに備えて少し仮眠を取った。

 時間になったので目を覚まし、背広に着替えていよいよ本日のメインイヴェント、ヴェルディの『仮面舞踏会』の鑑賞である。このオペラの舞台は第一稿ではストックホルム、初演版ではボストンと、いずれも港町であるから、港町ジェノヴァでの上演にふさわしい作品かもしれない。

 私はかねがね、イタリアオペラの代表中の代表であるヴェルディの作品を本場イタリアで見てみたいものだ、と思っていたので、ついに念願成就と言うわけである。

 序曲が始まると、いかにもイタリアのオケらしい軽やかで色の濃いサウンドが心地よく流れ始め、おお、イタリアだ、イタリアだ、と思わず笑みがこぼれる。

 演出はきわめてオーソドックスで、リッカルド役のマルコ・ベルティの声には国王/総督にふさわしい貫禄が感じられ、レナート役のマルコ・ヴラトーニャもなかなかいい味を出していた。アメリア役のインドラ・トーマスも丁寧な歌いぶりで好感が持てた。

 演奏全体としては、非常に満足だったのだが、意外な敵が私を苦しめた。それは、よもやイタリアでこの敵に苦しめられようとは思いもしなかった、不倶戴天の仇敵、湿度である。

 イタリアの劇場には、空調がないらしい。
 そのため、ただでさえじめじめした気候のジェノヴァで、大量の人を収容して締め切った空間の中で、照明のライトが高温を供給する……一幕が終わる頃には、まるでスチームサウナのようになっているのだ(死)。

 歌手ののどのためには、いい環境なのかもしれないが、さすがにあのじめじめ地獄の中でのオペラ鑑賞はまるで我慢大会だ。演奏が良く、上演を楽しめたからこそ、あの苦しみに耐え抜くことができたのだろう。そう考えると、実は湿度のせいで感性が鈍らされており、本当はもっといい演奏だったのでは、などという考えも浮かんでくる。せめてもう少し涼しいところで聴けていたら、さらに深く楽しめたのかもしれない。少々残念な話だ。

 とはいえ、やはり本場で聴くヴェルディの迫力は別格だ。
 本場でしか味わえない味わいを、確実に味わうことができたと思う。

 オペラがはねて劇場を出た後も、町は大変にじめじめしていた。上着を脱ぎ、ネクタイをはずし、首のボタンをはずし、プログラムをうちわにしてパタパタと歩きながらホテルへ帰る。この湿度はまるで、横浜のみなとみらいホールのコンサートの帰り道みたいだ、などと感じながら。(続く)
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コメント

寒い冬対策に暖房は19世紀から昔からあるにもかかわらず、冷房の完備している歌劇場は少ないですね。80年代後半、ベルリンで冷房が入っていたのは、チョコレート屋だけだったのを思い出しました!

  • 2006/07/18(火) 11:59:19 |
  • URL |
  • gramophon #-
  • [ 編集]

ヨーロッパでは本当に冷房を見ないですよね。
イタリアの歌劇場が夏になぜ公演を行わないのか、よく分かります。

  • 2006/07/18(火) 20:59:00 |
  • URL |
  • Tiberius Felix #-
  • [ 編集]

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