趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

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ヴィヴァ、商業主義!!

 先週の土曜に髪を切った。
 この何気ない行為が、私を恐るべき不幸のどん底に突き落とすとも知らずに……。

 ひそかに、だが確実に私を襲いつつあったその恐怖が、あからさまに私に牙をむいたのは翌朝のことであった。特に用もない日曜の午前、心行くまで二度寝、三度寝を楽しみ、これ以上は一睡もできないほど眠り倒して十一時頃にようやく重いまぶたを開けると……

 チクリ、と、刺すような痛みを目の中に感じる。

 さては目にゴミでも入ったか、と、目をぱちくりさせて涙を出そうと思うのだが、ぱちくりするたびに痛みが走り、とても三度とぱちくりさせられない。

 もちろんこの痛みによって涙は続々と出てくるのだが、それでも痛みは止む気配がない。目薬をさしてみてもダメである。
意を決して、大なべに水を張って顔を浸し、目の洗浄を図ってみるがそれでも異物が取れる気配がない。

 一体どうしたことか、と、手鏡を取り出し、まぶたをめくって中を見てみると・・・

 まぶたの裏側に、短い毛のようなものが、突き刺さっているように見える。まぶたの裏から、まるで置きぬけのひげのような長さで飛び出ていて、これが眼球を痛めつけていたのである。これは昨夜切った髪の切れ端に違いない。

 私は髪質が太く剛毛なので、短い切れ端状になるとまるで針金のようにかたく、鋭くなってしまう。この毛ならば、しかもその短さならば、まぶたの裏側の柔らかい粘膜など突き刺してしまうかもしれない。

 私は事態の深刻さを悟った。これは素人の手に負える状況ではない。専門家の手に委ねなければ!!

 しかし折悪しく日曜、通常眼科など営業しているはずがない。どこかに緊急外来でもないものか、とネットで検索してみると……

 意外や意外、日曜に営業している眼科というのは、意外にたくさんあったのである。

 それは、コンタクトレンズショップの付属医院だった。コンタクトレンズの購入には眼科医の処方箋が必要なため、コンタクトレンズショップは眼科を併設しているところが多い。必然的に最もかき入れ時の日曜に店を閉めるようなことはありえない。店だけ開けて医院を閉めておいたのでは、風呂屋が水道の元栓を締めて営業するようなものであるから、コンタクトレンズやが日曜に営業を続ける限り、付属医院も診察を続けるしかないのである。ヴィヴァ商業主義!!

 受付で症状を伝えて診察室に呼ばれると、目に入った異物と何もかもはっきりしているのにもかかわらず、それは大変です、まずは視力を検査しましょう、とのたまう。なぜ目の異物除去に視力検査が必要なのか?それは営利社団法人の定款所定の目的のためである。ヴィヴァ商業主義!!

 検査技師は『コンタクトをはずしてください』という。運営母体を考えれば当然の発言だ。『いえ、裸眼です』と答えると一瞬意外な顔をし、そして少々落胆した様子だった。歩合制なのだろうか。少しでも悪いところを見つけてコンタクトを売り込もう、というのか、検査は事細かにさまざまな項目に及んだ。だが、私の自慢の裸眼に隙はない。両目とも1.2をはじき出し、眼圧や色覚等、その他の詳細な検査項目でも異常点を検出できなかった技師殿は、機会原価の発生を嘆くかのように『目、いいですね。』と感想を述べた。その声は大変寂しそうであった。残念、儲け損ねましたね。

 いよいよ医師の診察である。
 驚いた。
 医師先生は大変な美人であった。
 さすが商人はこういうところも抜け目がないものだ。
 年恰好からして、おそらく研修医のアルバイトであろう。
 美の力は偉大だ。心なしか若干痛みが和らいだような(笑)。

 症状を伝えると、コンタクトを買いに来た人にコンタクトの処方箋を書くだけのルーティンワークを延々と繰り広げるだけの単純作業に退屈していたのか、久しぶりに毛色の変わった仕事ができそうだ、と少し美人先生の目が輝いた。

 『あー、涙腺にスポッと入っちゃってますね~』

 素人には想像もつかないことだったが、涙を目に供給する細い管の出口に髪の切れ端がちょうど栓をするかのように入り込んでしまっていたのだという。

 心なしか、腕が鳴るわ、といった感じの意気込みが伝わってきた。

 『ちょっと我慢しててくださいね』というが早いか先生は思いっきり力をいれて私のまぶたをつねるようにめくり上げた。美しさの幻惑は容赦ない鈍痛に押しつぶされた。

 『かなり奥まで入っちゃってるんですよね……ちょっとこっち側からつねるように押さえつけて押し出してから出ないとつかめないんですよ。』

 言いながら美人先生はさらに力を加える。
 痛みはさらに勢いを増して私を襲う。新手のSMプレイか?!

 敵は思ったよりも手ごわい、と思ったのか、美人先生は素人には覚えづらい名前の道具の有無を技師殿に尋ねた。ない、とのことであった。コンタクトの処方箋を書くには要らない道具らしい。余計な資産は買わない、これは商売の鉄則である。ヴィヴァ、商業主義。

 おそらく本業で勤めている病院にはあるのだろう便利な道具がないことがわかると、先生は少々覚悟を決めたような厳しい表情で満面の営業スマイルを作り上げてこう言った。

 『もうちょっと我慢してくださいね~』

 目薬を何度も差され、まぶたをいろいろな方向につねられながら格闘すること数分間。

 『取れた!!』
 
 美人先生はようやくその機能の劣るらしい道具で問題の髪の切れ端を取り出すことに成功したのであった。

 取り出した髪の切れ端を、これですよ、と私に見せてくれた。勝ち誇ったその笑みは、まるで捕まえたネズミを見せびらかしに来た猫のようにチャーミングであった(笑)。

 治療を終えて会計のときに私は気づいた。……高いな。
 明らかに、あの精密検査のような視力検査がかなりの値段を取っているに違いない。ヴィヴァ、商業主義!

 だが。この商業主義のおかげで、本来ならばもう一晩痛みに耐えながら、半休を取って平日の昼に眼科に行かなければいけないところ、痛みを24時間早く除去した上に貴重な有給を空費せずにすんだのだ。後一日痛みに耐え、傷が広がって細菌感染でもして視力にダメージが及ぶかもしれなかったのだ。これだけの救いの対価としてならば、まあ妥当な金額といえるだろう。

 いかなる事業であろうとも、採算の取れぬものは持続できないものである。

 とかく医療というとしたり顔の偽善者がある種のイデオロギーに依拠した口出しをしてくるものであるが、私を救ったのはほかでもない、この商業主義に他ならない。

 私は全面的に肯定しよう。医は算術である。

 ヴィヴァ、商業主義!!
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コメント

ヴィヴァ商業主義!! ×5
・・・。
余程、女医の診療サービスがよかったようですなぁ~(笑)
羨ましい。

  • 2006/07/29(土) 16:04:12 |
  • URL |
  • コヴァ #-
  • [ 編集]

フフフ、その辺はご想像あれ(笑)。
まあ、少々尾ひれ付ってことで……。

  • 2006/07/29(土) 21:29:00 |
  • URL |
  • Tiberius Felix #-
  • [ 編集]

 自分のヒゲをカットして、以前切れ端が目に刺さったことがありますので、痛さはよくわかります。涙は止まらないし、速攻目医者でした。
 需要と供給のバランスで価格は決まるのでしょうけどね。女医さんならいいか。

  • 2006/07/31(月) 13:05:15 |
  • URL |
  • gramophon #-
  • [ 編集]

>gramophonさん

本当に痛いですよね、あれは。
目に入って一番厄介なのは短い毛なのかもしれません。歴史の本に、古代にはさかさまつげが原因で失明にまで至ってしまった例が多かったという話が出ているのを読んだことがありますが、うなづける話です。

 目のトラブルが起こる確率は曜日を問わずおそらく一定である一方、日曜は新札が少ないので、必然的に高くなってしまうのでしょうね。
 しかし先生が美人だと多少治療が荒っぽくても料金設定までも荒っぽくても、ついつい許してしまうのはしょうもない男のサガですかね(苦笑)

  • 2006/08/01(火) 23:11:12 |
  • URL |
  • Tiberius Felix #-
  • [ 編集]

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