趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

対話か決闘か~モーツァルトフォルテピアノ協奏曲全曲レヴュー(8)

 すさまじい演奏を聴いた。
 こんな雷が落ちたかのような体験をしたのは本当に久しぶりだ。

 ソフロニツキの演奏が具体的にどうすごかったのかは後で詳しく述べることにして、とりあえず前振りに入りたい。

 第10番変ホ長調、K.365。二台のフォルテピアノのための協奏曲である。

 生徒の発表会用だった3台のフォルテピアノのための協奏曲とは違い、この曲はモーツァルトと姉ナンネル(彼女も大変腕の立つピアニストだった)のためにかかれたものであるので、遠慮なしにハイレヴェルな技巧がたっぷりと詰め込まれている。

 もちろん技巧的にすばらしいだけでなく、両者の親密な対話が高度に行われており、非常に聴き応えのある作品だ。「ジュノム」でオケとフォルテピアノとの緻密な対話を成り立たせた彼が、さらにフォルテピアノをもう一台加え、オケ、第一フォルテピアノ、第二フォルテピアノという三すくみの立体的な対話構造に作りこまれている。

 こうした対話を表現させたらフォルテピアノの天下である。
 この曲のフォルテピアノによる録音は私の知る限りは4種類、ビルソンがレヴィンとともに演奏したものが長らく唯一の録音で、その後今年に入ってから立て続けにインマゼールと金子陽子の演奏、ブルンナーとビルサクによる演奏が発売され、ここにソフロニツキがりんだ・ニコルソンを迎えて録音したこの録音が加わったわけである。

 ビルソンとレヴィンの演奏は、さすがフォルテピアノによる最初の録音だけあって、まさにお手本となる親密で豊かな対話が繰り広げられる演奏である。ブルンナーとビルサクの演奏はそれをさらに深めた形で、特に変幻自在の強弱法が極めて面白い。

 インマゼールと金子の演奏は非常に知的でクールで、大変冷静に論理的思考を積み重ねるような感がある。しかしこの録音では、モーツァルトがウィーン時代にクラリネット、トランペットにティンパニを追加したヴァージョンによっていて、サウンドが非常に絢爛豪華なのである。何となく教養高い貴族二人が都会の喧騒を離れた山荘で浮かれ騒ぐ民衆を醒めた目で冷徹に批評しあっているような雰囲気だ。そのギャップがなんとも面白い。

 で、ソフロニツキとニコルソンである。

 この二人の演奏は、同じ対話でもだいぶトーンが違う。
 前三者の演奏が親密さ、リラックス、穏やか、といった雰囲気をかもし出しているが、この二人の会話は非常にコンペティティヴで、対話というよりもディベートといった感がある。

 第三楽章に至っては、はっきり言おう、もはや対話ではない。

 決闘である。
 それも、左手を握り合って右手のナイフで斬り付け合うような、本気の殺し合いである。
 否むしろ、ふた昔前の少年ジャンプ漫画のごとく、漢の対話は殴り合いでやるんじゃぁゴルァ、といわんばかりの激しい対話だ。演奏者は二人とも女性だが(あるいは本気の女の喧嘩ほど恐ろしいものはない、ということなのかもしれない;苦笑)。

 とにかくこの二人の演奏する第三楽章はスリリングだ。特に印象的なのは曲が始まって一分少々のところ、第一ピアノがちょっとおどけたような高音のメロディを歌う伴奏をする際に、第二ピアノがその伴奏を何とオクターヴでやってのけているのである!!

 本当にこんなスリリングな演奏はめったにめぐり合えるものではない。この全集を買って本当に良かったと思う。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://tiberiifelicis.blog10.fc2.com/tb.php/246-4611cc05
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。