趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

情念、情熱、不敵な笑み~モーツァルトフォルテピアノ協奏曲全曲レヴュー(18)

 第20番ニ短調、K.466。

 モーツァルトのフォルテピアノ協奏曲の中で、モーツァルト受容史上もっとも評判の良い作品である。

 二曲しかない短調作品のひとつで、その中でも情熱的なニ短調で作曲されたこの作品は、ベートーヴェンが特に好んだほか、19世紀のロマン派の好みにマッチしたおかげで、他の協奏曲がほとんど忘れられた状態であったのを尻目にずっと上演機会に恵まれ続けたそうである。

 確かにこの作品は、ロマン派的な情熱を聴き取るに容易だ。
 第一楽章は短調で緊迫した感情表現が繰り広げられ、第二楽章は長調に転じつつも変ロ長調でメランコリックなメロディを繰り広げ、中間部では短調に転じて第一楽章的なパッションをあらわにする。第三楽章では縦横無尽のパッセージでこれまた情熱的に攻める。

 しかし、そういう見方はロマン派時代の好みの影響を受けて強化されているものであり、古楽器を用いる演奏ではそうしたイメージをあえて一度リセットして考え直すのがセオリーである。もちろん、そのように作曲されている以上は、いかに古楽器とはいえそうしたロマンティックな情熱が消えるものではない。古楽器による演奏では、それに加えて、それ一本にはならない複雑な表情を読み取るといったアプローチが多いように思われる。

 ソフロニツキはここでは比較的ゆったりしたテンポをとり、オケも弱音のコントロールを重視して室内楽的な音作りをしている。とくに第一楽章の冒頭を音量を押さえ目にしてささやくようなトーンではじめるのが特徴的だ。こうしてソフロニツキは一音一音つぶやくように、ささやくように演奏を始め、その後もしっとりとした語り口を貫く。その結果、情熱、というよりもむしろ演歌的な”情念”とでもいうべきどろどろした雰囲気がかもし出され、好き嫌いは分かれるだろうがなかなか面白い演奏だ。

 評判の高さは売れ行きに通じるからであろうか、この曲の同曲異演版の数は多い。私が持っているだけでいつものビルソン、レヴィン、インマゼールに加えてタン、コーエン、そしてギボンズは86年と04年とで二回も録音している。合計8種。ジュノムの9種についで2番目の多さだ。

 面白いのはギボンズの二種の比較である。
 最初の録音はブリュッヘンの指揮によるもので、こちらはブリュッヘンによる完璧なオケのコントロールのもと、非常にバランスのよい、まさにスタンダードと呼ぶにふさわしい演奏を繰り広げる。モーツァルトの死後まもなくベートーヴェンが演奏したとき、きっとこんな演奏ではなかったか。そう思わせるような情熱を味わうことが出来る。
 二番目の録音は、ジャネット・ソレルという、アメリカはクリーヴランドを拠点に活動している指揮者の伴奏によるものである。ひょっとしたらクリーヴランド管の演奏家も参加しているかもしれないこのオケの伴奏は、非常にスピード感があって、ギボンズもそれに乗って思いっきりバリバリと弾き飛ばしている。するとこの作品の『野心作』といった面が非常にはっきり現れてきて、これをお披露目するモーツァルトの不敵な笑みが目に浮かぶようだ。

 8種類もあるとさすがに全部コメントするのは難しいので、これ以上は強烈に個性的なコーエンの演奏について少しコメントするにとどめたい。
 コーエンの演奏はソフロニツキのような”情念”寄りの演奏なのだが、一種独特のひねくれ感が面白い。指揮者もオケもフォルテピアノもフランス人がほとんどなのだが、フランス人が集団になるとただでさえひねくれものの多いなかでそれぞれが対抗意識を燃やし、誰が一番ひねくれられるかひねくれ競争をはじめるようなことがあるらしいのだが、この演奏はそんなひねくれ競争とでも言うべき相様を呈している。
スポンサーサイト

コメント

確か、ワルターがピアノを弾きながら指揮をしたSP盤がありました。戦闘機のような演奏でした!

  • 2006/12/16(土) 17:42:46 |
  • URL |
  • gramophon #mQop/nM.
  • [ 編集]

ワルター

CDの復古く盤で聴いたことあります。
確かに戦闘機のような、激しい演奏でしたね。
機会があれば是非蓄音機で聴いてみたいです。

  • 2006/12/16(土) 21:16:05 |
  • URL |
  • Tiberius Felix #-
  • [ 編集]

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://tiberiifelicis.blog10.fc2.com/tb.php/256-27cd61dd
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。