趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

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ぜいたくは素敵だ~迷宮的旅行記第5章(6)

 さて、仮眠をとってすっきり寝ざめた私は、夕方になって背広でも何の問題もなく涼しくなっていることであろうと期待していたのだが……。

 そこは真夏の高緯度地帯。太陽はなお高くから強烈な熱を地上に照りつける。というわけで、湿度の低さゆえに来ていられないということはないものの、やはり暑かった(笑)。

 というわけで日光を嫌って、少々遠周りにはなるが路面電車を避けて地下鉄で行く。

 で、いよいよ国立歌劇場の前に着くのであるが、国立歌劇場のすぐ前には、あのホテル・ザッハーがそびえている。ウィーンに行ったら絶対にやろうと思っていた、ザッハートルテのザッハー/デーメル食べ比べの第一幕がいよいよ始まるのだ。これを見越して1時間早く出てきたのである。

 ザッハー・トルテは、ウィーン会議の時にヨーロッパ中の要人をもてなすため、メッテルニッヒ侯爵お抱えの料理人だったザッハーが考案した、チョコレート風味の濃厚なケーキである。ザッハーはメッテルニヒ家の料理人を辞めて独立し、ホテル・ザッハーを開業して自慢のザッハートルテを売り出し、これが大人気となってウィーン中に広まり、定番ケーキとして定着したのだそうである。

 このザッハーの娘が、ウィーンの老舗カフェ、デーメルの跡取り息子と結婚し、その縁でデーメルでもザッハートルテを売り出すようになった。ところが時代を経るにつれて子孫が仲たがいし、やがてうちのザッハートルテだけが元祖だ、本家だと裁判沙汰になった。

 結局、両者のザッハートルテの違いは、真中に薄くアプリコットジャムを塗るか塗らないかだけが違いなのだが、その判決はどうとでも解釈できるような玉虫色のもので、結局今に至るまで両方の店がザッハートルテを売り続けているというわけである。

 さて、いよいよザッハーホテルのザッハートルテを味わう。

 チョコレートの分厚いコーティングは、単なるチョコレートではなく、さっくりふんわりした、それでいてクリーミーな一種の生地のようになっていて、日本でしばしば生じる、チョコレートの固さゆえにフォークで切れない、無理に切ろうとするとケーキ全体がつぶれて崩壊してしまう、というあの不都合な現象がまったく生じることがない。これだけのことで食べる前からすっかり感心してしまった。

 ウィーンの定番通り、ケーキのわきにはたっぷりとホイップクリームが添えられているが、まずはケーキ本来の味を知るべく、クリームをつけずに一切れ味わってみる。

 まずは件のコーティングが、シャリシャリ、とろりとなんとも独特の感覚で口腔をくすぐる。しっかりとした腰の強い生地の食感がそこに加わり、濃厚なチョコレートのずっしりとしたコクが、そして重厚極まりない甘味が力強く広がってゆく。
 しかし、ごく薄く塗り込められたアプリコットジャムの層が、この土台の上にはなやかで軽やかな果実香とすがすがしい酸味を加え、極めて立体感にあふれた味わいになっている。なるほどこのアプリコットジャムが実に重要な役割を果たしているのだなぁ、というのが正直な感想だった。それはちょうどワーグナーの「神々の黄昏」の、ジークフリートの葬送の音楽のところで、低音中心の緊張感あふれる音楽が繰り広げられたところにトランペットがジークフリートのライトモチーフを輝くばかりに吹き鳴らす、あの瞬間のきらめきのような味わいである。

 今度はクリームをつけて食べてみる。すると今度は、クリームのまろやかな味わいが、ケーキそのままのどっしりした味わいを柔らかく包み、これまた大変美味である。ちょうどアバドがウィーンフィルを振って録音したブルックナーの交響曲第7番のような、ある種の恍惚感を伴う、重厚でありながらどこか果てしなく広がる感覚を持ったあの響きをほうふつとさせる味わいだ。

 このザッハートルテはうまかった。明日のデーメルはこれにどう立ち向かうのか、楽しみである。

 ザッハートルテの音楽的な味わいをたっぷり味わったら、今度はいよいよ音楽そのものをたっぷりと味わう番である。

 今回の演目は、ワーグナーのローエングリン。

 実はこの作品、今まで見聞きした印象だと、あまり私と相性の良い作品ではない。たいがい、第1幕前奏曲をたっぷりと味わったところでおなかいっぱいになってしまい、そのあとは第3幕の冒頭までなんだかんだで全体の時間の約2/3くらいは眠いダレ場、という非常に良くない印象を持っていたのである。

 ところが、そこは天下のウィーン国立歌劇場。
 音楽家の腕前は、何といっても日ごろの鍛錬と踏んだ場数の多さによるところが大きいわけで、それゆえ世界でほぼ唯一3交代制で年間10か月の間毎日オペラを上演しているというこの劇場のオーケストラの手にかかれば、ワーグナーのサウンドを大変豊かに響かせて、オケを聴いているだけでまったく退屈することがなく、奇跡的にも全く眠くならなかったのである。

 もちろん、歌も素晴らしかったのだが、やはりどうしてもこの劇場で聴いてしまうとオケ主役の感は否めない。とすれば明らかに歌よりもオケが主役のワーグナーを聴くには最高の楽団と言えるだろう。何しろウィーンフィルのメンバーの選抜母体なのだから。

 というわけですっかりローエングリンを堪能できて起源をよくした私は、昼間たっぷり歩いていたせいか、ザッハートルテを食べておいたにもかかわらず空腹を覚えたので、ホテルの近くのワインバーで軽く食事することにした。

 今日のお勧めとして黒板に書かれていたのはラムのすね肉の煮込み。私の大好物だ。迷わず注文。

 じっくり煮込まれたラムの骨付きすね肉は、しっかりした歯ごたえと、コラーゲンたっぷりのとろりとした食感、そして力強いコクがたまらなくうまい。グラスで注文した地ワインの赤との相性も抜群。このワインが又おいしく、同じものを2杯もお代わりしてしまった(笑)。

 トルテに酔い、音楽に酔い、ラム肉料理に酔い、そしてしっかり赤ワインにも酔う、最高の一夜。嗚呼、ぜいたくは素敵だ!!(続く)
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