趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

カオス実感~迷宮的旅行記第五章(11)

 翌日、私はギリシア神殿の遺跡で名高いアグリジェントを訪ねた。

 シチリア島はおおむね逆三角形をしていて、北岸、西岸、東岸の三辺から成っている。3000メートル級のエトナ山をはじめ、内陸部はかなりの高山で、勢い大きな町は海岸をぐるりと囲むように点在している。
 それゆえ、島内の交通は想像以上に移動距離が長くなり、主要都市間の平均移動時間は二時間にも及ぶ。

 私が今回のシチリア旅行の拠点としているのは北岸西部のパレルモである。目的地のアグリジェンドは西岸南部にあり、パレルモからは高速バスでおよそ二時間半。高速道路で山を突っ切る道のりであるが、シチリアは非常に広大な島で、約25千平方キロメートル。地中海の島の中では面積最大、イタリアの州の面積でも最大である。四国全体よりも広く、九州全体よりは小さいと言ったところである。この広さゆえ、山を迂回せず高速で突っ切っているにもかかわらず、この距離なのだ。

 時間よりも早めにバス乗り場に乗り込んだおかげで、一番前の座席に座ることができた。これで懸案のバス酔いも回避できよう。

 パレルモから一路南下して、シチリアと言えば真っ先に思い浮かぶ赤茶けたはげ山の中を突っ切って行く。内陸部は想像以上に貧しい雰囲気で、現在の事情はわからないが、1960年代にはシチリア内陸部の羊飼いがマフィアに入ってしばしば営利目的誘拐を働いていたと言う話が急激に現実味を帯びてくる。不用意にクラッチペダルを上げていくとドカン、なんていう某映画のワンシーンを回想しながら、あの映画に出てきたような荒涼とした―否、荒”熱”とした砂漠に近い印象のシチリアの山野をバスで突っ切って行く。

 さすがに、西岸最大級の都市アグリジェントにつくと、そのような一種異様な雰囲気はなくなる。代わって表れてきたのは、いかにも南イタリア、と言う感じの強烈なカオス感である。しかも、パレルモと違って空気はカラッカラに乾燥している。乾燥をこよなく愛する私にはうれしい限りだ(笑)
 
 目的地の考古学公園と考古学博物館は、歩くと少々遠いので、バスに乗ることにする。
 しかし、バス停目指して歩いていくと、いきなりバスに追い抜かれてしまった。バス停はまだまだ先で、走ったとしても到底追いつけそうもない。
 しかし、半ばあきらめていたら運よくバスが交差点で信号に引っ掛かり、珍しく信号を守って停止していた。その間に追い付いたのだが、バスはなんとドアを開けっ放しである。チャンスとばかりにだめもとで運転手さんに聞いてみる。
 "Senta, posso salire(すみません、乗ってもいいですか)?"
 運転手さんは満面の笑顔で答えてくれた。
 "Si, certo(いいとも!)!"
 シチリア式臨機応変、素晴らしい(笑)!

 すると運転手氏は、どこへ行きたいんだ、神殿か?と聞いてくれた。私は、まずは博物館に行きたい、と答えた。運転手氏は、よしわかった、博物館の近くについたら教えてやるよ、と答えてくれた。この言葉に安心した私は、ガイドブックを見たり窓の外の景色を眺めたりしてのんびりしていた。

 ……しかし、ガイドブックから目をあげてふと窓の外を見ると、神殿遺跡の脇をバスが通り過ぎてゆく。ガイドブックの地図によれば博物館は神殿よりも前にあるはずだったので、不安を感じた私は次にバスが停車するころ合いを見計らって運転手氏に、もしかして博物館を通り過ぎていないか、と聞いてみた。すると運転手氏は、破顔一笑して曰く、

 "Ah, ho dimenticato, scusi(あっ、忘れてた、ごめん)!"

 ……シチリア万歳(苦笑)!

 でもこのバスは町をぐるぐる回ってるから、また博物館の前を通るよ。その時は今度こそ教えてあげるから!とあっけらかんと笑顔で陽気に応える。もしこれを日本でやられていたらかなり頭にきそうなところだが、シチリアの空気は大したもので、なぜかこちらも「あはは、しょうがないね、今度は忘れないでね!」とついつい笑顔で答えてしまう。シチリアの空気は人を鷹揚にさせるに違いない。

 まあこれで、観光客は行かないようなアグリジェント市民の日常生活の空間を垣間見れる町内一周ツアーだ、と思い、窓の外を眺めながらのんびり行く。ある意味、日本でいえば沖縄的なところがあるのだろうか。町の人々の雰囲気は異常にのんびりしていて、日本人が思い描く「イタリア人」の陽気で気楽でのんびりしたイメージを地で行くのである。実際のイタリアで、こんなイメージ通りの人々を見かけることは意外なことにほとんどないため、なかなか貴重な体験であった。

 運転手氏が知り合いに会うたびにバスを止め、あけっぱなしのドアをはさんで律儀に数分の世間話をしていくので、バスはなかなか進まないのだが、その状況がこれまた本当のイタリアでもなかなか味わえない、日本人の妄想の中のイタリアのような状況を現実に体験するのがなんとも楽しかった。こうしてのんびりと町内を一周して約三十分後、今度は無事「博物館だよ、降りな、降りな」と教えてもらった。(続く)
スポンサーサイト

コメント

いよいよ「カオス シチリア物語」の世界ですね!

>なぜかこちらも「あはは、しょうがないね、今度は忘れないでね!」とついつい笑顔で答えてしまう。

思うに、ここで怒ったら、その人はイタリアに向いていない、ということでしょう。
私もの場合、お役所の"Chiuso"だけは、何度もやられて切れそうになりましたが…。

アグリジェントのギリシャ神殿に辿り着かれるまで、楽しみに待ってます。

  • 2007/07/20(金) 00:00:08 |
  • URL |
  • なつ #3ItBdoaY
  • [ 編集]

 確かに。
 イタリアを楽しめる人と言うのは、そういった意味でのある種の耐性がある人なのかもしれませんね。

 ギリシア神殿編、お楽しみに!

  • 2007/07/20(金) 23:39:24 |
  • URL |
  • Tiberius Felix #-
  • [ 編集]

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://tiberiifelicis.blog10.fc2.com/tb.php/343-a03bdfc8
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。