趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

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秩序はカオスから生まれる~迷宮的旅行記第5章(13)

 博物館から歩きはじめて10分ほどすると、いよいよ神殿の入り口に着く。

 神殿群は周りに何もない見晴らしの良い高台に建てられていて、町中からよく見えるのだが、近づくにつれてその堂々たるたたずまいを実感するようになって行き、いよいよ入口に足を踏み入れると、その建築の素晴らしさに圧倒されてしまった。

 まずは、最も大きく、最も保存状態の良いコンコルディア神殿へ向かう。保存された神殿の例にもれず、ローマ帝国末期にはキリスト教会に転用されていたらしいのだが、そのような神殿にしては珍しく、柱廊を壁で埋めてしまうようなこともなく、多神教時代の美しいたたずまいそのままで残されていた。

 それにしてもギリシア神殿と言うのは均整のとれた美しさにかけては比類がない。黄金比を発見したギリシア人が神殿は黄金比で建てていたからだというが、町中のカオスを抜け出してきた先に出会っただけに、その秩序感が極めて鮮烈だった。

 だが、自然の本来の性質はむしろ秩序よりもカオスにあるといえるだろう。したがって、そうした「秩序」は、人間の手で苦労して維持されなければ存在し続け得ない。とすると、そうした秩序を維持するエネルギーに満ちた人々が住む町であるならば、むしろエネルギーに満ちたあのカオスな街こそふさわしいのではないか、とさえ思えてくる。

 そういえば、古代の多神教でもキリスト教でも、万物は混沌から生まれたとする点では争いがない。

 ……とするとそのうちカオスそのものの私の散らかった部屋から、何かとんでもなく秩序に満ちたものが生まれ出るかもしれないだろう(笑)。

 続いてヘラの神殿へ向かう。
 ここはこの町がギリシア名でアクラガスと呼ばれていた時代の中心的な神殿だったところだが、今は倒壊して完全に廃墟となっている。

 この神殿を破壊したのは、後世のキリスト教徒ではなく、同時代のカルタゴ人だったそうである。当時、神殿は要塞を兼ねていたので(それゆえに町の中で最も険しい丘、すなわちアクロポリスの上に建てることになっていたのだが)、攻城戦に敗れて陥落の憂き目にあった歴史を持つ町のアクロポリスの神殿は、必ず攻城戦の最後の舞台となって焼討されたり破城兵器にやられたりして、破壊されてしまう運命なのである。

 アクラガスのヘラ神殿も、そんな歴史を持つ廃墟らしい。陥落と破壊から優に2500年もの果てしない時を経た今も、激しい戦闘の際に火に焼かれて変色したりすすで汚れたりした跡が残っていた。

 その後も、あちこちに点在する神殿の遺跡を巡ってうろうろと歩きまわったのだが、抜けるような青空を遮るものなしに降り注ぐシチリアの日光はそれはそれは強烈で、その暑さは須佐まじいものがあった。

 ガイドブックが事あるごとに、帽子や日傘の使用を推奨していたので、念のためウィーンで買った折りたたみ傘を持ってきていたのだが、大正解であった。この日傘が日光から守ってくれなかったら、日射病になっていたかもしれない。

 しかし、そんな暑さにもかかわらず、私は一瞬たりとも不快に感じることはなかった。その原因は、暑さ以上の猛烈な乾燥である。乾いた空気をこよなく愛する私には、アグリジェントののカラカラに乾いた空気はまさに快感そのもので、下手な高原よりもよっぽど気持ちがよく感じられる。実際問題として、乾燥した空気が体からすごい勢いで水分を奪っていくのか、約3時間ほどの遺跡見物の間に私は一人でミネラルウォーターの1.5リットルのボトルを3本あけている。しかも、この間汗らしい汗をほとんどかいていないし、尿意もほとんど覚えていない。汗腺から放出される水蒸気は、その空気のあまりの感想ゆえに液体になることができず、水蒸気のままどんどん消えていくのであろう。そして、わずか3時間の間に4.5リットルの水が、それと気づかぬうちに蒸発していったのであろう。ああ、何という快適な気候!!ヴィヴァ、アエロ・セッコ(乾燥した空気、万歳)!!

 この日の乾燥っぷりを実証する、さらに目に見えて驚くべきことがあったので書いておこう。旅行中、私は岩波文庫のヘロドトスの歴史を移動中の楽しみに読んでいたのだが、ミネラルウォーターを入れておいたビニール袋がバッグの中でずれてしまったようで、冷たいミネラルウォーターの表面にできる水滴を本がたっぷりと吸収してびしょびしょになる事態が生じてしまった。持っていたバッグが裏地に完全防水のビニールコーティングされたもので、バッグの中にパレルモの限りなく100%に近いすさまじい湿度がこもっていたせいであろう。
 
 その濡れっぷりはかなり壮大で、本全体の約1/3がぐっしょりと湿っていた。
 日本だったら、否、パレルモですら、これは一昼夜干しても容易には乾くまい。ところが。アグリジェンドの乾燥のおかげで、強烈な直射日光にさらして天日干しすると、なんとものの5分でパリッパリに乾ききってしまったのだ!おお、何と素晴らしい乾燥ぶりだろう!

 こうなってくるとプラセボ効果でも出てくるのか、自分の体調すら日本やパレルモの数倍健康に感じてしまうから不思議だ。つくづく私は乾いた空気が好きなのだ。

 そんなこんなでたっぷりと古代文明とそれを育んだ乾燥を堪能して、私はパレルモへの帰途に就いた。(続く)
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