趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

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秋刀魚苦いかしょっぱいか

 ある日、仕事で疲れていた私は誘惑に負けて衝動買いしてしまった。

 ……「備長炭さんま焼きセット」(笑)

 七輪に備長炭、火起こし、火ばさみ、火消し壺、と一式揃っていて、あとは食材さえそろえばサンマが焼ける、と言う素敵なグッズだ。

 惜しむらくは、現在の住環境ではとても七輪に備長炭でさんまなぞ焼けたものではない、と言うことであろう(死)

 集合住宅住まいの私には、外で火を使いうるプライヴェートなスペースがない。ヴェランダでさんまを焼こうものなら上の住民から損害賠償請求が来ること間違いなしである。

 そんなわけで、半ば覚悟の上とはいえ、ずっとお蔵入りしていたさんま焼きセットがだ、先週日曜、ようやく私の酔狂に友人2名が付き合ってくれることになった。持つべきものは友である。

 さて、三人が三人とも車を持たないため、はるばる横浜から二子玉川まで電車を乗り継いで30分、重くてかさばる七輪他一式を担いでいく(笑)。二子玉川で食材を調達し、バーベキューのメッカの多摩川河川敷でいよいよ火をおこす。

 備長炭は火がつきづらいため、備長炭に火をつけるにはガスコンロで15分ほどあぶらねばならないのだという。と言うわけで、わざわざカセットコンロまで持って行った(苦笑)。

 備長炭の表面が一様に白く灰で覆われたら、火が起こった証拠である。備長炭は赤く焼けなくてもたっぷりと遠赤外線を出すのでこれで焼きものができるのだという。

 まずは手始めに、火の加減を測定する意味合いを兼ねて、アスパラガスを焼いてみる。網の上にアスパラガスを並べて塩をふり、火の通るのを待つのだが、これがまた立ちあがりのぬるい炭火でなかなか火が通らない。焼き始めて25分はたったころだろうか、ようやく表面がしんなりとしてきたので、一本かじってみることにした。

 すると、一見火が通っていなさそうでいながら、その実は中は十分に火が通っていて、前歯がアスパラの茎を切り咲くや否や、遠赤外線で温められて甘みのましたジューシーな水分が口中に満ちる。これはポジティヴサプライズであった。遠赤外線恐るべし。

 アスパラを味わった後は、鶏肉を塩・コショウであぶってみる。
 心なしか若干火力は増したようで、覚悟していたよりは早く表面が焼き固まった。その頃合いでかじってみると、これがまた美味い。表面はかなり固めに焼きあがっているのだが、ガス火でその硬さまで焼いてしまった場合とは全く異なり、中は極めてしっとり、ジューシーに焼きあがっている。炭火ならではの香ばしさも加わって、とてもおいしかった。

 いよいよ本命のさんまを焼く。

 ぬるい弱火の炭火でじんわり焼いていくと、やがて表面にうっすらと焦げ目がついていく。身をひっくり返して反対側を同程度に焼きあげ、食べてみると、割りばしで皮を裂くその瞬間からして、手に皮のパリパリとした質感が伝わってくるではないか。巣立ちを絞って一口九日運ぶと、まるで焼きノリのようにパリッと焼きあがった皮の下にはぷっくりと脂の乗った身が詰まっており、そしてその身の焼き上りが、普段食べているサンマはいったい何なのだと思うほどにふっくら、ふわふわしている。天然の味わいが十二分に引き出されているせいか、焼き塩の塩分に搾りかけたスダチの香りだけで十分に味わうことができ、あえてそこに醤油をかけようという気さえ起らないほどであった。

 そして私にとって非常に意外だったのが、このぬるい炭火でじんわりと時間をかけて焼くと、サンマからほとんど煙が出ないということである。サンマから出る煙は、さんまの油が滴り落ちて炭火に触れ、それが炎上することで生じるものであるらしく、弱い火力でじんわりと時間をかけて焼くとそのような油の滴りが生じないので煙が出ないのであろう。よく考えたら、せっかく蓄えたさんまの脂を逃さない焼き方であり、この焼き方によって煙を出さずに焼き上げるのが最もさんまの素材の味を引き出す焼き方なのではなかろうか。

 サンマは一人二匹用意しておいたので、もう一匹が待っている。

 とりあえず箸休めに、追加で調達してきたウィンナーやアスパラガスなどを焼いていたのだが、次第に炭火が力尽きたので、一気に火力を増強することにした。

 炭の本数を倍近く増やすと、連鎖反応的な現象でも生じているのであろうか、真っ赤に焼けていかにも隅美と言う様子になる。こうなると、炭火の火力の強さは本領を発揮し、あっという間にウィンナーの皮をはじき、アスパラガスに焦げ目をつけてゆく。

 最後に本命の、二匹目のさんまを焼いたのだが、この強烈な火力はさんまの脂を絞り出して燃え上がり、巨大な炎が黒煙を上げて炎上する、いかにもイメージ通りのさんまを焼く風景が出来上がっていた(苦笑)

 しかし、実際に食べてみると、さっきのさんまの味わいには遠く及ばぬ代物になってしまっていた。

 強すぎるか力で表面だけが焦げて中は微妙に丸焼け。黒煙にいぶされてすすで黒く汚れ、余計な苦み、雑身がついてしまっている。これでは全くせっかくの素材の味が台無しだ。

 あの程度の煙ならば―実際、弱火であぶっているときに出た煙の量は、たばこ2本にも満たない程度のごく少量の煙であった―ベランダでやっても苦情は決してこないだろう。これを発見しただけでもかなりの収穫だ。

 それにしても、備長炭を味わうには気の長さが欠かせない。
 アスパラガス、鶏肉、ウィンナー、サンマと、この程度の食材を焼きあげて食べ終わるまでの所要時間は、何と三時間半。イタリア人の食卓でも、ここまで長々とは食べまい(笑)。

 時間の優雅な味わい方、と言う意味でも、なかなか素敵な休日だったと思う。
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