趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

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タンクレーディとクロリンダの戦い&ダイドーとイーニアス

 日曜日、横須賀で上演されたオペラ、「タンクレーディとクロリンダの戦い」「ダイドーとイーニアス」を鑑賞してきた。

 演出担当のカウンターテナー歌手、彌勒忠史氏の冒頭の解説ののち、横須賀市芸術劇場の15周年記念ということで、まずは地元に敬意を表して(?)、指揮者の江崎氏の自作曲「スカジャン」が演奏された。

 江崎氏はスカジャンとサングラスに身を固め(笑)、得意の「リコーダー二本同時ぶき」などを披露しつつ、楽しませてくれる。曲調は横須賀らしくジャズで、もともとはジャズのアルバムのために書かれた曲だそうである。これを濃楽器桶で演奏すると、音色の溶け方が斬新で、非常に面白い演奏になっていた。

 次いで、時代を300年引き戻し、パーセルの組曲とシャコンヌを演奏。
 フランス舞曲中心の組み立てが、不思議とジャズの後にすんなりつながるのが面白い。どちらもはじめはダンス音楽、ということなのだろうか。続くシャコンヌも、この後に上演される二つの悲劇への素晴らしい橋わたしとして、情念たっぷりにじっくりと演奏されていて、なかなかいい演奏が聞けたと思う。

 いよいよ前半のクライマックス、タンクレーディとクロリンダの戦いである。
 これは本来はマドリガルであるが、そのドラマティックな内容故に、逆演奏会形式とでもいおうか、黙役の俳優を使って、演奏者の演奏に合わせた舞台演技を伴う形式での上演となっている。

 彌勒氏はこれを歌舞伎に見立て、義太夫よろしく歌手が舞台右わきに並んで座り(さすがに裃に正座ではなく洋装に椅子ではあるが)、その傍らで三味線よろしくアーチリュートの通奏低音が奏でられ、その前で歌舞伎舞踊の踊り手二人がタンクレディとクロリンダを歌舞伎の所作を用いた振り付けで演じるのである。

 確かに、初期バロックのモノディは義太夫のように聞こえるし、この演出はなかなか塔を射たものと思われる。実際、情念たっぷりに歌い上げられるモンテヴェルディのモノディと、歌舞伎の所作の演技が非常にはまっていて、おもしろく鑑賞することができた。それにしても、歌舞伎シネマの翌日見に行ったオペラが歌舞伎の演出になっているとは、おもしろいシンクロニティである。

 休憩をはさんで後半の「ダイドーとイーニアス」が始まる。これは、ウェルギリウスの叙事詩「アエネイス」から題材をとったイギリスの中期バロックの作曲家、ヘンリー・パーセルの作品で、それゆえ登場人物もディードーはダイドー、アエネーアースはイーニアスと英語風に訛っている。

 今度も演出が斬新で、バリ古典劇風の衣装と舞台設定になっていた。確かに、現存する多神教文化で比較的日本になじみがあり、それでいてエキゾティックさのあるものと考えると、慧眼だと思う。

 この作品はイギリス人の作曲家によるものだけあって、録音も軒並みイギリス人の演奏家によるものが多く、私が親しんでいる録音も、非常にイギリス的にあっさりとしたホグウッド指揮の、カークビーがダイドーを歌うオワゾリールの盤である。

 ところが、今回の演奏は、非常に情念豊かな濃厚なもので、大変に聴きごたえがあるものであった。特に、全曲中の白眉である、ダイドーの最後のアリアなど、オスティナート・バッソの上に切々と繰り広げられる恨み節が、この上なく濃厚な味わいで胸に迫ってくるのである。

 この場面の演出もまた、素晴らしかった。歌詞に、「クピドーよ、女王の墓の上にバラの花びらを撒いてくれ」、という言葉が現れるのであるが、まさにその言葉の通り、横たわるダイドーの亡骸の上に、薔薇色の紙吹雪がひらひらと舞い降りて積もっているのである。それは、文字通りバラの花びらであるとともに、自ら剣で貫いた胸から流れ出るダイドーの血の血だまりのようでもあり、この二重写しとなった情景がこのオペラを貫く情念をこの上なく雄弁に語っていたように思われた。

 今まで本場イタリアでの鑑賞も含めて、何度もオペラを見たが、演奏で感動したことはあっても、演出でここまで感動を受けたものはかつてなかった。演奏の素晴らしさを含めて、この舞台は私の記憶にいつまでも残るものとなるだろう。
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