趣味の迷宮 ~LABYRINTHVS AD PARNASSVM~

作者Tiberius Felixの迷宮的な趣味に関する雑記帳。 主に音楽、映画、読書、語学、グルメなどの感想・論評を中心に、興味の赴くまま無秩序に迷宮的に書き綴っていくつもりです。

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ベン・ハー~有名なものほど自分の目で評価すべし

 引き続き映画三昧の正月である。

 今回はクラシカルな大作で、まだ見たことがないものをじっくりと見てみようと思っていたのだが、同じようなことを考えている人は結構いるとみえて、借りようかと思っていたタイトルのうち、貸し出し中でなく無事借りることが出来たのは悲しいことにベン・ハー1本だけであった。

 この映画、戦車競争で車軸に鋭利な刃物を取り付け、相手の車輪をガリガリと破壊して次々に戦車をぶっ壊していくシーンだけがやたら有名で、私もそのシーンしか知らず、舞台が古代ローマというだけでどんなストーリーの映画なのかまったく知らないままに見始めたのだが、いろいろと感じるところの多い映画であった。

 ストーリをかいつまんで言うと、ローマ帝国支配下のユダヤに住む旧ユダヤ王族の主人公ベン・ハーが、幼馴染であったはずのローマの高官に濡れ衣を着せられて母と妹を投獄され、自分はガレー船のこぎ手としての労働刑に処せられるが、そのガレー船が敵の艦隊に衝突されて沈没した際にその間に乗っていた将軍を救出し、それにより恩赦を受けて将軍の養子に迎えられ、ユダヤに戻って自分を陥れた高官と負けたら死を意味する命がけの戦車競技で対決して勝ち、母と妹を助けようとすると二人は獄中で業病をわずらい「死の谷」に追放されている、そこで当時奇跡を起こすとして民衆の信仰を集め始めていたキリストに奇跡による癒しを施してもらおうとイェルサレムに赴くが、ちょうどキリスト処刑の日で、十字架を背負ってゴルゴダに上るキリストを見て、かつて労働刑に処せられていたときに水を恵んでもらった人物だということに気づき、処刑執行後奇跡により母と妹の病が癒える、という、かいつまんでもこれほど長くなってしまう複雑な話である。ちなみに上映時間は3時間半。長い!!

 まず強烈に実感したのが、この映画の作り手であるハリウッドの支配民族、ユダヤ人とWASPの反ローマ帝国感情の根強さである。これは塩野氏の著作の中にも指摘されていることなのだが、ベン・ハーに限らず50~60年代のハリウッド映画ではローマ帝国が徹底的な悪の帝国として描かれている。ローマの歴史を少々かじったことのあるものならば首を傾げるしかない、誇張された描写が多く、まるで某国を批判することを国策としている某国のプロパガンダ映画を見ているかのようだった。まあ、この映画自体1959年の作品で、イスラエル建国(1949年)の熱狂醒めやらぬユダヤ人と、反ローマという点では利害を共にするWASPが作った一種のプロパガンダ映画なのかもしれないが。

 さらに私が強く感じたのは、ここで描かれているのは、「アメリカ人が考える、他国を支配するということはいかなるものか」なのだ、ということである。ローマ当局の人間たちの傲慢で居丈高な発言はそっくりそのままアメリカの当局の人間たちがここ数年繰り広げている傲慢で居丈高な発言そのもののように感じられる。この映画を見ただけで、アメリカ人にローマ帝国はとても作れないであろう事がはっきりと理解できる。死後の神格化を頑として拒否したティベリウス帝について、その存命中にDivine EmperorだのEmperor is the ONLY godだのと(この発言自体、ローマ人の価値観から最もかけ離れたものなのだ)言っているあたりも、きっとアメリカ人の発想が反映されているものに違いない。

 しかしストーリーは上記の通りかなり偏向したものではあるのだが、それでもやはり古典的名作として素晴らしい出来栄えの映画ではある。あの有名な戦車競争シーンの迫力は圧巻であるし、まだCGが世に現れる以前の時代の作品ならではの絢爛豪華な映像美も素晴らしい。さらには音楽が大変良く出来ていて、特に冒頭でミケランジェロの「天地創造」のアダムと神の指先の部分を切り取った静止画像をバックに
序曲を延々と奏でるあたり、この映画の中で非常に音楽が重視されていることがわかる。

 やはり、名作とされるものには一見の価値があるものだ。
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コメント

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお付き合いの程、お願い致します。

「ベン・ハー」ですか。実は恥ずかしながら、通しでは未見です。
理由を言うと長くなりますが、私が映画を見始めた中学生の頃は、アメリカン・ニュー・シネマがテレビに放出されていた時期で、その影響かメジャーの大作映画を軽蔑するという、今思えばもったいないことをしていました。
それで、多くがチネチッタスタジオで撮影されたスペクタクル大作を見るようになったのは、わりと最近なのですが、ローマ帝国=悪役という図式は、怒るよりも可愛いくらいですね(笑)
あと、『ベン・ハー』は隠れたホモ・セクシャル映画だそうで(監督らはそのつもりで撮っていたものの、主演のC・ヘストンには隠し通したとか)、そのへんも楽しみに(!)見てみようと思います。

  • 2006/01/02(月) 00:37:38 |
  • URL |
  • なつ #3ItBdoaY
  • [ 編集]

へえ、ホモセクシャル映画だったんですか。気づきませんでした。後でその辺の絵解きを調べてみます。
ただ、例の「アダムの創造」の部分は何となく同性愛的な香りのする絵ではありますよね。

  • 2006/01/02(月) 23:41:39 |
  • URL |
  • Tiberius Felix #-
  • [ 編集]

名作

 思想的なことを別にすれば、文句なしにいい映画ですね。おっしゃる通り、特に戦車シーンの迫力は特記すべきものです。
 まだ、見たことありませんが、レニ・リーフェンシュタールの「意思の勝利」も映画として素晴らしいものなのでしょう、きっと。

  • 2006/01/05(木) 11:58:54 |
  • URL |
  • gramophon #-
  • [ 編集]

gramophonさん、あけましておめでとうございます。

『意思の勝利』ですか。恥ずかしながら私はこの映画の存在を知りませんでした。今度レンタルを探して見ます。

  • 2006/01/05(木) 21:46:20 |
  • URL |
  • Tiberius Felix #-
  • [ 編集]

意思の勝利

 余りの影響に、ドイツでは未だに発禁、日本でも発売されず、唯一アメリカ版DVDが手に入るだけです。
 今度、手に入れたらお貸ししますよ。

  • 2006/01/06(金) 11:38:22 |
  • URL |
  • gramophon #mQop/nM.
  • [ 編集]

そうだったんですか。
ぜひよろしくお願いします。

  • 2006/01/07(土) 11:55:20 |
  • URL |
  • Tiberius Felix #-
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